社長・溝畑宏の天国と地獄
Jリーグクラブ「大分トリニータ」を創設し、ナビスコカップ優勝に導きながらも、翌年J2に降格、クラブを破綻させたと言われる男、溝畑宏にスポットを当てたドキュメンタリーです。普段テレビやスタジアムでは見ることのできない、Jリーグクラブ運営の裏側を垣間見られる、非常に興味深い一冊です。
溝畑氏は、「努力して大分にJリーグクラブを創設し、ワールドカップを誘致するという夢を叶えた男」として美化しようとすればいくらでも美化できそうな一方、「放漫経営でクラブをオモチャにして破綻させた」として非難しようと思えば、これまたいくらでも非難できそうな人物です。そんな評価が難しい人物を、著者の木村氏は様々な関係者の証言により、極力客観的に判断しようとしています。
著者の意見としては、「溝畑氏には欠点もあり、やり方がまずかった部分も多々あった。だけどクラブの破綻を彼一人に押し付けるべきではない。筆者自身も含めて、トリニータに関わった全ての人が責任を感じるべきだ」というもののようです。確かに、溝畑氏自身は私財を投じてクラブや選手を最後まで守ろうとしました。地元や行政はどこか「他人事」な感じがしましたね。それはもちろん「大分トリニータ」というクラブ自体が、「ワールドカップ誘致」という目的のために溝畑氏一人の情熱で作られたという特異な生い立ちを持っていることもあると思いますが。
溝畑氏は常にクラブのスポンサー探しに苦労します。Jリーグはパチンコ業がユニホームの胸スポンサーになることを許さず、小室哲哉は逮捕されてスポンサーを降り、新たに見つけてきたスポンサーは、スタジアムでサポーターに中傷されてしまいます。
いろんな要素が逆境を持ってくるわけですが、著者は一方的な報道のやり方や、マスコミの責任を重いと見ているように思います。大分県内でスポンサーが見つからないから県外から引っ張ってきているのに、「地元企業がスポンサーになるのが望ましい」と簡単に報道したり、一度逮捕された選手と契約する際に、ネガティブな報道をしたり(「反省した若者に社会復帰のチャンスを」と報じたら、イメージは全然違った)。それらの報道がどういう結果を生むのかを考えずに、さもトリニータを応援しているかのような姿勢を見せるメディアの姿に怒りを覚えたのではないでしょうか。
Jリーグクラブを取り巻く、様々な要素について考えさせられる一冊です。
評価:★★★★
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