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2012.01.31

僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ


僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ

自分は名古屋グランパスファンでありますが、しばしば等々力競技場へ川崎フロンターレの試合を観戦に行きます。そこでいつも感心させられるのが、満員のサポーターとアットホームな雰囲気です。かつてのJ2時代には、観客席がガラガラのスタジアムで試合をしていたこのチームが、どうしてこのような発展を遂げたのでしょうか。いつも疑問に思っていました。

フロンターレを育てることに尽力している一人の人物が書いたこの本は、その疑問に対する回答を示してくれます。著者の天野氏は米国でスポーツビジネスを学び、その後フロンターレに入社して、様々なアイディアと行動力で、フロンターレをプロモーションしていきます。小学生の算数ドリル、バナナ、銭湯、絵本の読み聞かせ…。およそサッカーとは関係の無いようなものばかりです。「一営利企業による単なるタイアップ宣伝行為ばかりじゃないか」という見方をする人もいるかもしれませんが、満員のスタジアムで、選手と一緒に喜んだり泣いたりするサポーターの姿を見ると、彼が頭をひねったり、汗を流した結果が、「スポーツで人の生活を豊かにする」というクラブの理念の実現に繋がっていると思います。

もちろん、フロンターレの発展は彼一人に起因するものではないですし、サッカーの魅力は試合がメインです。でも、その魅力を多くの人に知ってもらい、お金を払って何度もスタジアムに足を運ぶようにしてもらうためには、ピッチの内外での継続的な努力が欠かせないということを、あらためて思い知らされます。

この本を読んで思い出した本が一冊あります。大分トリニータの栄光と転落を描いたノンフィクション「社長・溝畑宏の天国と地獄」です。

人口や経済状況等が全く異なる大分と川崎、そしてチームの社長である溝畑氏と一部門の部長である天野氏を一概に比較することはできませんが、大分は地元やマスコミなどが、クラブのことをまるで「他人事」のように扱っていて、地元に浸透していないという印象を受けました。でも、フロンターレもかつては注目されないJ2の弱小チームでした。大分トリニータもありとあらゆる手段を使って地元に深く深く根付く努力を惜しまなければ、いつかは芽が出てJ1に帰り咲く日が来るのではないかと思います。

「僕がバナナを売って算数ドリルをつくるワケ」と「社長・溝畑宏の天国と地獄」の2冊は、セットで読むことをお勧めします。スポーツノンフィクションとしてもビジネス書として読んでも、いろんな発見が得られる良書です。

評価:★★★★

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2012.01.21

Lionboy


Lionboy
(75,375語 YL:6.5)

ネコと会話ができる少年Charlie。彼が家に帰ると、科学者である両親が姿を消していた。どうやら近所に住む少年Rafiが関与しているらしい。Charlie自身も捉えられそうになるが、街中のネコ達の助けによって逃げのびる。たどり着いた先は、パリへ向かうきらびやかなサーカス船。Charlieは、そこで出会ったライオン達から頼みごとをされてしまう。「我々をアフリカの大地へ逃がして欲しい…。」

両親を探す少年Charlieの冒険物語です。姿を消した両親の捜索、きらびやかなサーカス団、ネコと話せる特殊能力、ライオンを連れて追手Rafiからの逃避行、そして豪華なオリエント急行など、児童書に必須のハラハラドキドキワクワクをいっぺんに詰め込んだ作品ですね。リアリティなど眼中に無く、ファンタジーの王道ど真ん中を突っ走っている感じが良いです。

ただ、物語が尻切れトンボなのはいただけません。「次巻へ続く」という終わり方というよりは、事件が何一つ解決せず、章の途中でブツッと切られた感じです。続きものの作品だったとしても、1つの作品として、起承転結をまとめてほしかったです。

評価:★★★

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2012.01.07

Steve Jobs


Steve Jobs
(220,000語 YL:8.0)

言わずと知れた2011年の大ベストセラー、Steve Jobsの公認の伝記です。

多くの人のインタビューなどを通して、Jobsという人間を克明に描いています。生い立ちから始まり、Apple IIやMacなどのPC黎明期から、iPadに至るまでの彼の激動の人生をとても詳細に述べていて、非常に読み応えがあります。

神のように崇められる才能を持ち、悪魔のように冷酷。Reality distortion fieldで実現不可能と思われることを可能にする一方、自分に都合の悪い情報は全てシャットダウン。完璧主義で「最高のもの」以外は全て「最低」判断するセンス。全てが極端なJobsですが、そんな彼を側から支え、バランスを取っていた妻Laureneの役割は、彼の人生において非常に大きかったのではないかと思います。

そして、Jobsの人生の物語を面白くしているのは、やっぱりもう一人の天才、Bill Gatesの存在でしょうね。時にライバルであり、友人であり、才能を認める相手であり、こき下ろす対象であり…、2人の関係は複雑でとても一言で言い表せるものではありません。PCのOS市場では圧倒的にAppleを凌駕しているMicrosoftですが、JobsがMacやiPod、iTunes Storeなど様々な「マジック」を披露する度に、驚きを隠せないGatesの姿もまた印象的です。

Jobsの才能は様々に語られていますが、やはり一番大きいのは「最高の製品やサービスを送り出したい」という情熱だと思います。そのためには他人にも無理な要求をして真っ向から対立するし、長い時間検討してきたことを全て破棄してゼロからやり直すことも厭いません。それくらいのことをしないと世界が変えられないと知っていたこと、そして恐れずにそれを行動に移せることが、彼の最大の武器だったのではないかと思います。空気を読んで、対立を避け、波風を立てないように生きている人から見ると、彼の姿はとても鮮烈で眩しく見えてしまうことでしょう。

残念ながらJobsは亡くなってしまいましたが、「永続的な会社を作る」というのも彼の目標の1つでした。AppleがIBMのように100年続く会社になればよいですが、Jobs亡き後、一気に坂道を転げ落ちて、会社が潰れたり、他の会社に買収されたりすることが無いとも言い切れません。そういう意味では、Jobsの「挑戦」はまだ続いていると言ってもいいのかもしれません。

自分が毎日使っているiPodの隅々にも、Jobsの情熱と魂が宿っていると知った時、それが今までよりも美しく見えてしまうような気がします。

評価:★★★★★

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